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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)13034号 判決 1984年5月08日

原告 サンレッド株式会社

右代表者代表取締役 岡田好弘

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 大森鋼三郎

同 今野久子

被告 中川記雄

右訴訟代理人弁護士 田宮甫

同 堤義成

同 齋喜要

同 濱崎正巳

同 坂口公一

主文

一  被告は、原告サンレッド株式会社に対し、金二一二万円、原告有限会社みどりやに対し、金三〇五万一八〇五円、原告株式会社ジュールニットに対し、金一〇〇万円、原告株式会社三幸に対し、金一〇〇万円、原告玉作秀彦に対し、金二七七万二〇七五円、原告直崎健に対し、金一三〇万円及び右各金員に対する昭和五五年一月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告サンレッド株式会社のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告サンレッド株式会社と被告との間に生じたものは、これを四分し、その一を同原告の負担とし、その余は被告の負担とし、その余の原告らと被告との間に生じたものは、被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告サンレッド株式会社に対し、一〇〇〇万円、原告有限会社みどりやに対し、三〇五万一八〇五円、原告株式会社ジュールニットに対し、一〇〇万円、原告株式会社三幸に対し、一〇〇万円、原告玉作秀彦に対し、二七七万二〇七五円、原告直崎健に対し、一三〇万円及び右各金員に対する昭和五五年一月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項について仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告サンレッド株式会社(以下「原告サンレッド」という。)は、昭和四三年一一月二一日に設立された衣料、洋品、雑貨の製造、販売等を営業の目的とする株式会社である。被告は、設立当初から原告サンレッドの代表取締役の地位にあったが、昭和五三年九月一四日、これを辞任し、それ以降は同原告の取締役の地位にあった。

2(一)  原告サンレッドは被告の全額出資により設立された会社であり、被告がその代表取締役の地位にあったときはもちろんのこと、昭和五三年九月代表取締役の地位を退いてからも、同原告の運転資金等の資金繰りについては、被告が自ら融資するか、あるいは、被告が経営するサンクレジット株式会社(以下「サンクレジット」という。)からの融資という形で、被告が全面的に資金調達の便宜を与えてきた。

(二) 昭和五四年三月二八日、被告、原告サンレッド代表取締役岡田好弘(以下「岡田」という。)及び同作本幸三郎(以下「作本」という。)は、同年四月及び五月の同原告の資金繰りについて協議し、その際、被告と原告サンレッドとの間において、被告は、同原告に対し、同年四月及び五月中に総額二〇〇〇万円を融資するものとする、そして、とりあえず、同年四月に支払期日が到来する同原告振出の支払手形を決済するため、被告は同原告に対し、同月一九日に一五〇万円を、同月二四日に三五〇万円を、同月三〇日に五四〇万円をそれぞれ融資する、その担保として、同原告は右各元本額に日歩七銭の割合による利息を加算した金額を額面とする約束手形を振り出し、交付する旨の合意(以下「本件消費貸借の予約」という。)が成立し、同月一九日、右合意に基づき、被告は、同原告に対し、一五〇万円を融資した(そして、同原告は、同月二四日、右債務を担保するため、同原告振出にかかる額面一六六万一七〇〇円の約束手形を交付した。)。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2について判断する。

1  請求原因2の(一)の事実について検討するに、原告サンレッドが被告の全額出資により設立された会社であることは、当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すれば、原告サンレッドの取扱商品の主力は秋、冬物商品(特に婦人用セーター)で、この売上げが全売上げの六割以上を占めていたこと、そして、これら秋、冬物商品は毎年八月末ころから一一月末ころにかけて仕入れ、その代金支払のために振り出した約束手形の支払期日が翌年の四、五月ころに集中し、従って、毎年この時期に手形決済資金に不足をきたし、その調達が必要となる状況にあったこと、原告サンレッドの経営は昭和四八年ころから昭和五〇年ころにかけてほぼ順調に推移し、それ以降も収支相均衡する状態が続いていた(もっとも、例年四、五月ころに手形決済資金が不足することは右述のとおりである。)こと、原告サンレッドの資金調達については、銀行等の金融機関から融資を受ける通常の方法による以外は、不足する資金は殆んど被告において調達していたこと、昭和五二年五月ころ原告サンレッドの取引先であるシルビアンが倒産し、その結果、約一三〇万円の売掛代金債権が回収不能となり、更に、昭和五三年七月ころ取引先のマッチが倒産し、約一〇〇〇万円の売掛代金債権が焦げ付いたこと、そのころ、被告、岡田及び作本は、右事態に対処するための善後策を話し合い、被告が、被告において資金を用意するので、原告サンレッドの経営を継続したい旨提案し、岡田及び作本もこれに同意し、その結果、右経営を継続することになったこと、また、同年九月、被告は、岡田及び作本に対し、原告サンレッドの資金は被告が全面的に面倒をみるので、同原告の代表取締役に就任してもらいたい旨強く説得し、岡田及び作本は、被告が資金援助をするというので、被告の右申入に応じて同原告の代表取締役に就任し、それと同時に被告は代表取締役の地位を退いたこと、そして、その後も、被告は、被告が主宰するサンクレジット(これは、いわゆるサラリーマン金融業を営業目的とする会社で、実質的には被告の個人会社である。)から、原告サンレッドに対し融資をなしたこと、原告サンレッドは、例年、同原告の主力商品の卸売代金の弁済を受ける秋から冬にかけて、右のように被告がサンクレジットから手形決済資金等として融資した金員について、元金及び利息ともその殆んどを弁済してきたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

2  同2の(二)の事実について検討するに、《証拠省略》に右1に認定した事実を考え合わせると、右(二)の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

3  同2の(三)の事実について検討するに、原告サンレッドが昭和五四年四月二四日不渡手形を出して倒産したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すれば、被告は、同日午前、岡田に対し、同日中に原告サンレッドに三五〇万円を融資する旨約束しながら、同日午後二時三〇分ころ、電話で岡田及び作本を原告サンレッド営業所前のホテルグランドパレスに呼び出したうえ、右両名に対し、「融資はできない。会社は整理する。」旨通告し、本件消費貸借の予約に基づく三五〇万円の融資義務の履行を拒絶したこと、被告の右債務不履行により、原告サンレッドは同日不渡手形を出して倒産したことが認められ(る。)《証拠判断省略》

更に、《証拠省略》に右1に認定した事実を考え合わせると、被告は、従前の原告サンレッドの資金調達の経緯に照らして、同原告は被告から融資を拒絶された場合、直ちに他から数百万円の資金を調達しうる状態になかったことを知っていたはずであること、しかも、被告は、昭和五四年四月二四日の時点において、原告サンレッドは支払期日が同日の支払手形の決済資金三五〇万円の不足をきたし、他から融資を受けるなどして右手形の決済資金を準備できなければ右手形が不渡りになることを十分に認識していた(しかるに、同日午前中には右不足資金を融資する旨約束しながら、同原告が他の方法により右決済資金を調達する時間的余裕のない午後二時三〇分ころに至って、右融資を拒絶した。)こと、被告は、原告サンレッドが不渡手形を出した同日夕方、警備保障会社に同原告の財産の保管を依頼したのみで、その後は同原告に対する債権者との接触を断ち、債権者集会にも出席せず、債権者の中には同原告の再建を図ろうとする動きがあったにもかかわらず、同原告の再建のために何らの努力もしなかったこと、被告は、本件消費貸借の予約に基づき、同月一九日、原告サンレッドに対して一五〇万円を融資するにあたり、右融資分及び同月二四日、同月三〇日に予定されている各融資分について、これを担保するための岡田及び作本が手形保証をした同原告振出の約束手形を交付するよう要求し、同月二四日に岡田から右手形(同月一五日融資分の一五〇万円を担保するための額面一六六万一七〇〇円の約束手形、同月二四日融資予定分の三五〇万円を担保するための額面三八七万七三〇〇円の約束手形及び同月三〇日融資予定分の五四〇万円を担保するための額面六〇〇万八五八〇円の約束手形)を受け取るや、同月二四日午後、今後の融資を拒絶する旨の前記通告をなしたこと、そして、その後、岡田が被告に対して右手形の返還を求めたところ、被告は、岡田に対し、「原告サンレッドには他に四〇〇万円の債権があるのだから、右のうち額面一六六万一七〇〇円と三八七万七三〇〇円の手形は返さない。右額面三八七万七三〇〇円の手形との合計が四〇〇万円になるような手形を持ってくるならば右額面六〇〇万八五八〇円の手形を返す。」旨回答し、返還に応じなかったので、岡田は、同月二八日ころ、被告に対し、岡田及び作本が手形保証をした同原告振出の額面一二万二七〇〇円の約束手形を交付し、右額面六〇〇万八五八〇円の手形の返還を受けたこと、岡田が被告に交付した右三通の約束手形は株式会社栄進に裏書譲渡され、被告及びサンクレジットの原告サンレッドに対する債権は回収されたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

以上に認定した事実によれば、被告は、被告及びサンクレジットの原告サンレッドに対する債権の回収のみを図り、本件消費貸借の予約を履行しなければ、同原告振出にかかる支払期日が同月二四日の約束手形が不渡りになり、同原告が倒産するに至ることを十分に認識しながら、右債務の履行を拒絶し、その結果、同原告を倒産するに至らしめたものであり、被告は故意又は重過失により取締役の会社に対する忠実義務に違反したものというべきである。

従って、被告は、本件消費貸借の予約の不履行によって原告サンレッドに生じた損害、及び右忠実義務違反によって原告みどりやらに生じた損害を賠償する責任を負うべきである。

三  請求原因3及び4について検討するに、《証拠省略》を総合すれば、原告みどりやらは、原告サンレッドに対し、原告みどりやら主張のような取引により原告みどりやら主張の売買代金債権を取得したこと、その後、原告サンレッドの整理により一部弁済を受けたものの、現時点においても、原告サンレッドに対し、原告みどりやは四七二万六二六九円の、原告ジュールニットは一九一万三一六八円の、原告三幸は二五一万五八六七円の、原告玉作は四二九万六七一七円の、原告直崎は二〇六万四八三三円の各売買代金債権を有していること、原告サンレッドは、現在、再建の見込は全くなく、売掛代金債権の回収及び在庫商品の売却によって右の如き一部弁済をなしたものの、他に弁済の資に供しうる資産はないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告みどりやらは、同サンレッドの倒産により、少なくとも、請求原因3において原告みどりやらが弁済を受けることが全く不可能となったと主張する金額相当額の各損害を被ったものということができる。

四  請求原因5について検討するに、《証拠省略》を総合すれば、原告サンレッドは、その経営は昭和四八年ころから昭和五〇年ころにかけてはほぼ順調で、それ以降も収支相均衡する状態にあったが、昭和五二年及び翌昭和五三年に、取引先であるシルビアン及びマッチの倒産により合計約一一三〇万円の売掛代金債権が焦げ付き、一時会社資産の悪化、運転資金の不足を招いたこと、しかし、被告らからの融資によってこれをつなぎ、その後は売上げも伸び、昭和五四年四月末段階では、マッチの倒産による約一〇〇〇万円の売掛代金債権の焦付部分を除いてではあるが、帳簿上は約四〇〇万円の黒字を計上しうる状態にあり、あと数年、順調に推移すれば、右売掛代金債権の焦付部分も克服することが期待できる状態にあったことが認められ(る。)《証拠判断省略》 右認定事実に二で認定した各事実を考え合わせると、被告が昭和五四年四月二四日に突然に融資を拒絶しなかったならば、或いは、仮に、今後の融資を打ち切るにしても、原告サンレッドにおいて独自に資金調達しうるだけの時間的余裕をもって将来の融資打切を通告したならば、同原告は同日不渡手形を出さずに存続することができたものということができる。

そこで、被告の本件消費貸借の予約の不履行によって原告サンレッドの被った損害について検討するに、《証拠省略》を総合すれば、原告サンレッドは、倒産時、三三七八万六六六九円の売掛代金債権を有し、少なくとも二一六二万円相当の在庫商品を有していたこと、しかし、衣類の卸売会社が倒産した場合、サイズと色がそろわず、その補充がきかないことなどから、在庫商品の価値は著しく減少すること、同原告は、右売掛代金債権の回収、右在庫商品の売却により一九五〇万円を債権者に弁済することができたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定事実によれば、原告サンレッドは、倒産により、少なくとも、右在庫商品の価額である二一六二万円から右弁済額の一九五〇万円を控除した残額である二一二万円の損害を被ったものということができる(なお、債権者である原告サンレッドの倒産により売掛代金債権が通常回収不能になるものとはとうていいうことができず、しかも、在庫商品の価額の減少についての具体的な主張立証がない本件においては、同原告の損害額は右のように考えるほかなく、右の額を超える損害の発生は、これを認めるに足りる証拠がないものというべきである。)。

五  以上の事実によれば、原告サンレッドの請求は、二一二万円及びこれに対する訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和五五年一月一二日の翌日である同月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告みどりやらの本訴各請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山﨑宏)

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